申立人と相手方の監護意欲、監護態勢その他の事情を比較し、申立人の監護意欲、監護態勢の方が優っているとして、申立人を未成年者らの監護者として指定するとともに、相手方が申立人に対する未成年者らの引渡しを拒否するような態度を示していることから、相手方に対し、未成年者らの引渡しを命じた事例
【子の監護者の指定、子の引渡し申立事件、福岡家裁平二六(家)47号〜50号、平26.3.14審判、認容(確定)】
判例時報2256号
1 事案の概要等
平成19年に相手方と婚姻した夫である申立人は、妻である相手方との間に長女及び長男をもうけ、四人で暮らしていたが、平成25年に相手方が二人の子を連れて実家へ戻り、申立人との別居を開始した。
なお、相手方の実家には、相手方の父、祖母、弟及び妹が暮らしていた。申立人は、相手方の精神状態が不安定で、妄想がひどいが、病識がなく、未成年者らを養育することに大きな不安があるとして、離婚及び未成年者らの親権者を申立人と定めることを求めて夫婦関係調整調停を申し立てたが、調停期日に出頭した相手方が対話性幻聴等により協議が可能な状態ではなかったため、調停の申立てを取り下げ、代わりに子の監護者の指定及び子の引渡しを求める調停を申し立てた。
同調停が不成立により終了して移行した審判手続に係る事件が、本件である。
本審判は、家庭裁判所調査官の家庭訪問による相手方の未成年者ら(当時、長女が6歳、長男が4歳)の監護状況の調査等を経た上で、
相手方については、
@別居時までは未成年者らの主たる監護者であり、監護に特段の問題はなかったこと、
Aしかし、別居後は、約半年以上にわたり、未成年者らの監護をもっぱら相手方家族に任せて、自らはほとんど関わっていない状態にあり、監護意欲が著しく低下していること、
B相手方家族にも、未成年者らの生活全体を通してその世話や躾をしている者はなく、そのため、未成年者らは、幼稚園や保育園等に通うこともなく不規則な生活を送り、躾を受けることも、監護者に構われることもなく、ほとんど未成年者ら二人のみでテレビやゲームで遊ぶという生活が日常化していること、
C長女は、小学校に入学すべき年齢であるのに、相手方はその手続きをしておらず、相手方の精神状態に照らして、同手続がされる見込みは認められないことを認定し、
一方で、申立人については、
@別居時までは未成年者らの主たる監護者でなかったものの、休日等にはその監護に関わっており、監護内容に問題があったとはうかがわれないこと、
A別居後は、未成年者らを保育園や小学校等に通わせる手続を済ませ、自らの勤務内容等も調整して、適切な監護態勢を具体的に整えており、その監護意欲も高いものと認められること、
B別居後も未成年者らとの面会交流を継続し、両者の関係は良好であり、長女は小学校への入学及び申立人との同居に積極的な意向を示していることを認定し、
このような申立人と相手方の監護意欲、監護態勢その他の事情を比較すれば、相手方の監護状況は適切ではなく、申立人監護意欲及び監護態勢の方が優っているというべきであり、申立人を未成年者らの監護者として指定することが未成年者の利益に最も適うものと認められるとして、申立人を監護者として指定した。
阿部補足
(1)子どもの様子
調査官の家庭訪問の際に、子どもらは午前10時15分時点でも起床しておらず、起床後も着替えもせず、長女は朝食ではなくお菓子を食べ始め、長男も朝食ではなくチョコレートを食べ始めたが、誰も朝食の準備をする人はいなかったという。
また、長女は、妻のもとでは小学校入学の手続きをしてもらっておらず入学の見通しがたたないものの、ランドセルについての希望を述べたり、勉強の準備をして、小学校の入学を楽しみにしているのだという。
(2)妻の様子
妻は、日常的な会話に問題はなく、自動車の運転や買い物等の日常生活はできるが、裁判所や夫に対する話題が出たり、妻の意に沿わない発言があると、対話相手に激しく怒り、罵声を浴びせるなどの攻撃的な対応をする状態になるという。