妻が長女を、夫が長男をそれぞれ監護している状態で、長男の親権が争点となっている事案です。
客観的にみれば、離婚を考えている夫婦の思いと、子どもの思いは、全く違うのだけれど、当事者は気づかないことが多のです。
長女は、「仲の良かった長男と会う機会を増やして欲しいこと、長男は夫だけでなく妻のことも慕っていることを理解して欲しい」と述べ、長男は、「妻、妻の父、長女と定期的に交流したいこと、また、夫から妻への非難の言葉を聞くことが好きではないこと」を述べました。
子ども達は、離婚に巻き込まれた状況をただ受け入れています。本来、家族であれば会えて当然のところ、上記の子どもらの発言は会えないことを前提としているようにも思います。
心細く、無力感を感じる子ども達にとっては、親権はどちらであれ、早く安定した生活ができるよう紛争の終結を一番に望んでいるのかもしれません。
阿部マリ
家裁月報64-10-75
【事例2】
事件名:夫婦関係調整(離婚)
当事者:申立人(妻)、相手方(夫)、長女(17歳)、長男(11歳)
調査事項:子の監護状況及び子の意向
子の調査に至る経緯:申立時に夫と妻は同居中で、妻は、婿養子に入った夫に対して離婚等を求めた。
申立ての5ヶ月前に妻の不貞行為が発覚したことから激しい紛争になった。
夫は、約1年前から長男の世話を進んでするようになり、長男は食事のとき以外はほとんど夫と一緒に過ごすという状況になっていた。
妻は、長女及び長男の親権を求め、夫は、長男の親権を求めた。
長男と親密な関係にあるのは夫であるが、長男の食事を用意しているのは妻であった。
夫は、第1回調停期日後に、長男を伴って妻宅を出て別居した。
妻は、長男のスポーツ少年団の活動日にしばしば顔を出して長男と会っているものの、夫及び長男の別居先の住所を知らされていなかった。
夫は、以前から長男の意向を何度も聴いてきており、別居時も長男の意向を聴いた上で連れて出たこと、毎日きちんと食事を作って食べさせていること、長男は自分だけで荷物を取りに妻宅に行ったことがあることなどを説明した。
これに対して、妻は、長男の住居を明らかにするよう求めるとともに、長男の親権者になる希望はあるが、長男の意向を尊重して親権者を決めるということでよいと述べた。
調停委員会及び調査官から、長女及び長男の意向を確認して話合いに反映させていくこと、長男の監護状況を確認すること、長男と妻らの面会交流を検討することを目的として子の調査を行うことを提案した。