<阿部補足>
監護権の争いになっている子どもらは、当時1歳と2歳の乳幼児でしたが、夫が監護権者と指定されました。
妻は、これまでに二度の離婚歴があり、それぞれに子を出産し、一度目の結婚のときの子Eの親権は妻で、二度目の結婚のときの子は元夫が親権者となり、本件は三度目の結婚で二人の子CとDを出産して、監護権を争った事案です。
妻はEと二人で暮らしており、夫はCとD及び夫両親と同居している。
裁判所は、妻夫ともに、監護者としての適性を欠くとまではいえず、物的な養育環境の面でも住居や保育所などの環境を整えており両者に差はないと判断している。
しかし、今後の養育環境において、夫はこのままの環境で安定して子育てができるのに対して、妻は監護補助者について具体的な提案がないのであるから、養育の安定性を欠くとを懸念した。
また、乳幼児期における母親優先の原則があるものの、夫の母によって母性的な監護がなされているから、妻が母親である点は重視すべきものではないと判断した。
<子の監護者の指定申立て及び子の引渡し申立却下審判に対する即時抗告申立事件>
広島高 平19.1.22(決)
家裁月報 第59巻 第8号
【主文】
1.原審判を次のとおり変更する。
2.未成年者らの監護者をいずれも相手方と定める。
3.抗告人の未成年者らの引渡しの申立てをいずれも却下する。
【裁判事項】
子の監護者の指定申立事件において、当該申立を却下せずに申立ての趣旨と異なる監護者を指定すべき場合
【裁判要旨】
抗告人からの子の監護者の指定申立てを却下した審判に対する即時抗告審において、子の監護に関する処分は、子の福祉に直接関係し、裁判所による後見的関与の必要性が高いこと、監護の基本的な事項についても抗告人と相手方の間で対立していること、抗告人と相手方との間で離婚訴訟が継続中であってもその確定に時間を要することを照らすと、監護者の指定申立てを受けた裁判所としては、監護者の指定をせずに放置するのでなく、適切な監護者を定めるべきであるとして、相手方を監護者として指定した事例。
参考条文
民法766条、家事審判法9条1項乙類4号、家事審判規則19条2項
抗告人(母:原審申立人)
相手方(父:原審相手方)
【抗告の理由の要旨】
未成年者らの監護者は、抗告人が適当である。幼児期における母親の存在は、子の健全な成長発育には不可欠なものであり、母親自身が子の監護をする意思がない場合など特段の事情のない限り、母親が監護者ひいては親権者に指定されるのが子の福祉に適うものである。
【反論の要旨】
未成年らの監護者は、相手方が適当である。幼児期の子の健全な成長発育に不可欠なのは、母親だけではない。父親も同様に不可欠である。単に抗告人が母親であるという理由だけで、抗告人が監護者ひいては親権者に指定されるべきだというのはいささか乱暴な論理である。未成年者らが、相手方の下で順調に成長発育していることをも踏まえると、監護者は相手方がふさわしい。