『勤務先を退職して収入が減少した者からの婚姻費用分担額減額の申立てを認めなかった事例』
歯科医であるものが、勤務先の病院を退職し、大学の研究生として勤務しているために収入が減少したとしても、その年齢、資格、経験等からみて以前と同程度の収入を得る稼働能力があるものと認められるから、減少後の収入を婚姻費用分担額算定のための基礎とすることはできず、婚姻費用分担額の変更をやむを得ないとする事情の変更は認められない。
婚姻費用分担(減額)審判に対する抗告事件、同附帯抗告事件
大阪高平成22.3.3(決)
家裁月報62巻11号
●その他参考になる判例
1.収入がないこと又は低いことがやむを得ないとされた例
(1)大阪高決平21.4.16(平21(ラ)204公刊物未登載)
アルコール依存症、健忘症候群によって稼働能力なし。
(2)大阪高決平20.10.8家月61-4-98
子が4歳と3歳のため稼働能力なし。
(3)大阪高決平17.5.9(平16(ラ)1334公刊物未登載)
無職だが、年齢、資格、他の勤務経験を有しないことを考慮して賃金センサスで年収を推認。
2.低い収入に甘んじている場合
(1)大阪高決平18.4.21(平17(ラ)1219公刊物未登載)
医師の事案。勤務していた病院を退職してアルバイトとなったが、本来の稼働能力に応じた収入を自らの意思で得ていないとして、潜在稼動能力として年収1427万3900円と推認。
(2)大阪高決平21.10.21(平21(ラ)852公刊物未登載)
母親が父親に対してした婚姻費用分担請求が認められた後、大学進学中の子が20歳に達したこともあって、父親に対し、婚姻費用として認められた分を超える学費相当額を請求した事案。母親の稼動が年間29日であることから、それ以上稼動できるとして実際の年収のほぼ2倍相当額とした。
3.収入に影響を与え得る立場にあり、低い収入に合理的な理由がない例
(1)大阪高決平21.5.25(平21(ラ)496公刊物未登載)
父親が経営者の会社に勤務。賃金センサスの6割相当の年収300万円を推計。
4.退職者
(1)福岡家審平18.1.18家月58-8-80
強制執行逃れで勤務先を退職したので、退職前の年収で算定し、事情変更の理由がないとして申立てを却下。
(2)大阪高決平21.10.29(平21(ラ)961公刊物未登載)
父親の経営する電気店が経営困難になったことから、家業を継ぐために会社を退職して年収が下がったことを認めた。
(3)大阪高決平21.9.4(平21(ラ)669公刊物未登載)
家業の会社が破産して、自らも破産し無職となったので、婚姻費用の免除を求めた事案。賃金センサスの半額程度の年収を推計した。
(4)大阪高決平17.5.11(平17(ラ)249.334公刊物未登載)
整理解雇されて無職となったが、それでも直ちに無収入と評価することは相当ではなく稼働能力を推認。