東京地判昭61・8・26 判時1217・83
<争点>
@婚姻前に躁うつ病である旨の不告知が不法行為となるか。
A自殺行為に及ぶことは配偶者に対する不法行為となるか。
<裁判所の認定した事実>
昭和57.2 太郎と花子が見合い。
昭和57.10 結納
昭和58.5 結婚式・ヨーロッパ新婚旅行
同年6月7日 婚姻届出
同年6月15日〜16日 花子は太郎が薬を服用していることを知り、薬名、服用目的や病名を追及したが、太郎は頑として回答を拒絶。
同年6月17日〜18日 花子は太郎の大量の各種錠剤を発見。6月27日、花子の父は戊田医師を訪ね、同医師から花子に真実を告げるよう太郎の実家に伝える旨の確約を得る。
同年6月29日 太郎は変調を訴えて会社を休み、夕方花子が外出先から帰宅すると室内は撤水で水びたしだった。その後太郎は6階から地上に転落し、投身したと判断された。
昭和29.8.7 協議離婚
本訴提起
<裁判所の判断>
持病が躁うつ病で、婚姻前薬2年間はかなり安定した職業生活を続けていた夫の場合、病名等を婚姻前に妻に告げなかったことが不法行為と評価することはできない。
しかし、服薬の事実を妻に発見され追及された段階において、夫がひたすら秘匿を続けた結果、婚姻生活の破壊行動たる自殺行為に出るに至ったのは、夫として婚姻生活を維持するために当然尽くすべき義務を故意に懈怠したもので、これによって原告に生じた損害について不法行為責任を負う。
妻が被った精神的損害に対する慰謝料は1000万円とするのが相当。