有責配偶者である夫からの離婚請求を認容した原判決を取り消し、請求を棄却した事例
離婚、反訴請求控訴事件、附帯控訴事件 東京高 平20.5.14(判)
家月61巻5号
有責配偶者である夫からの離婚請求につき、別居期間が15年以上経過し、
当事者間の3人の子はいずれも成年に達しており、夫婦間の婚姻関係は既に破綻しているが、
妻は夫から婚姻費用分担金の給付を受けることができなくなると経済的な窮境に陥り、罹患する疾病に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況になることが容易に予想されるとともに、長男については、身体的障害及びその成育状況に照らすと後見的配慮が必要と考えられ、
夫の長男に対する態度からすると、離婚請求が認容されれば妻が独力で長男の援助を行わなければならず、
妻を更に経済的・精神的窮状へ追いやることになるとの事情の下においては、
離婚請求を認容することは、妻を精神的、社会的、経済的に極めて苛酷な状態におくことになり、著しく社会正義に反し許されない。
夫は、平成5年に別居を始めて以来、平成17年に婚姻費用分担調停が成立するまで、妻に対して婚姻費用として何らの金銭給付も行っていないところ、
妻は、現在、資産も、安定した住居もなく、夫から給付される月額14万円の婚姻費用を唯一の収入として長女方に寄宿して生活しているものであり、
高齢に加えて、更年期障害、腰痛及び抑うつ症の疾病を患い、新たに職に就くことは極めて困難なものとうかがわれ、仮に夫からの離婚請求が認容された場合には、夫からの婚姻費用の給付を受けることができなくなり、
経済的な窮境に陥り、
罹患する疾病に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況となることが用意に予想されるところである。
加えて、長男は生まれつきの身体障害に加えて、その後の生育状況に照らし、妻がその生活について後見的な配慮を必要と考えるのも、無理からぬ点がある。
夫の長男に対する従来の態度が愛情を欠き、長男に対する金銭的援助を一切拒絶していることに照らせば、離婚請求が認容されれば、夫と長男との間で実質的な親子関係を回復することはほとんど不可能な状態となることは、妻の器具するとおりであり、
経済面、健康面において不安のある妻において、独力で長男の生活への援助を行わざるを得ないことにんはれば、妻を、経済的、精神的にさらに窮状に追いやることになるものである。
夫は、当審において、離婚に際して、1204万8000円の金員支払いを提示しているが、この点を考慮しても、離婚を容認したときに妻が上記のような窮状におかれるとの認定は左右されるものではない。
そうすると、本件において、夫の離婚請求を任用するときは、妻を精神的、社会的、経済的にきわめて苛酷な状態に置くこととなるといわざるを得ないから、
夫の離婚請求を認容することは著しく社会正義に反するものとして許されないというべきである。
元記事/2009.06.25 Thursday/阿部マリ