<判示事項>
抗告人が相手方に対して未成年者の監護者を抗告人と指定すること及び未成年者を抗告人に引き渡すことを求めた事案において、
離婚時に未成年者の親権者を相手方と定めたが、監護者について協議が調わない状況で、離婚後も抗告人が未成年者の監護を継続していたところ、
相手方が、未成年者を数日後に抗告人のもとに返すと虚偽の説明をして抗告人から未成年者の引き渡しを受け、その後監護養育を継続しているという事実関係の下で、
離婚の際に一方を親権者と定めた場合でも、その時点において子の監護者に関する協議が調わない状況にあった場合には、
家庭裁判所において子の監護者を定めることができるとした上で、未成年者の従前の主たる監護者は抗告人であり、その監護に問題がなく、未成年者の年齢に照らせば抗告人を監護者に指定するのが相当であるなどとして、申立てを却下した原審判を取消し、抗告人の申立てを容認した事例。
大阪高等裁判所
平成30年3月9日決定
子の監護に関する処分(監護者指定、子の引渡し)申立却下審判に対する抗告事件
家庭の法と裁判2019-FEB-18 63頁
1 事案の概要
(1)母は、平成23年、父と婚姻し、子(平成24年生)をもうけた。
(2)母と父は、離婚後自宅で同居していたが、平成28年、父は自宅を離れて単身赴任した。子の主たる監護者は単身赴任の前から母である。
(3)父は母に対し、平成28年離婚を申し入れ、同年末、父母は離婚に向けて別居状態にあること、父の不貞を不問に付し、子の親権者を父に指定すること等が記載された誓約書を示したが、母は署名を拒否した。その後、父母の離婚の話し合いの中で、子の親権をめぐってやりとりが繰り返され、そこでは親権と監護権を分属させる話も出た。
(4)母と父は、平成29年、子の親権者を父と定めて協議離婚したが、子は引き続き母が監護していた。
(5)母は、平成29年、ゴールデンウイーク明けまでには返還するとの約束で、子を父に引き渡した。ところが、父はその後も子を返還せず、母に対し、今後父が子を監護養育すると伝えた。
(6)母は、父に対し、平成29年、子につき監護者指定と子の引き渡しを求めて本件審判を申し立てた。
(7)父は、平成29年、Hと再婚し、子とHの子の4人で生活している。(いずれも養子縁組していない。)父は製薬会社で勤務し、H(専業主婦)が子らを監護している。子とHの関係は良好であり、Hの子との関係にも問題はない。
(8)母は、母方祖父母宅で生活し、飲食店の契約社員として稼働している。祖父母は、母の生活費を負担し、子の監護を補助する意向である。
(9)家裁で実施された親子交流場面観察では、子は父母の双方によく親和している。
2 原審において、母は、本件離婚の際、親権者を父としたが、父母間で離婚後も引き続き母が子を監護養育することを合意したと主張した。
これに対し、原審は、母が主張するような監護権を父から分属させるような合意は認められないと認定したが、
本件の事情の下では、子を母が監護する方が父に比べて子の福祉に適うことが明らかと認められる場合には、子の監護者を母と指定する必要があるとした。
その上で本件は、子の従前の主たる監護者が母であり、監護状況に特段の問題がなく、今後予定している子の監護体制にも特段問題がないとしても、父が監護する場合に比べて子の福祉に適うことが明らかであるとまでは評価することは難しいと判断して、母の申立をいずれも却下した。母が抗告した。
その結果が上段の<判示事項>である。