<阿部コメント>
本件は、長男・二男・三男のうち、二男が妻の不倫の子であったが、夫は二男が自分の子ではないと知ったものの、法的に親子関係を解消する手段が残されていない状況での、離婚後の養育費についての事案です。なお、別居中の婚姻費用は二男の分も含めて支払っていました。
裁判では、二男の養育費を夫は支払わねばならないのかが争われ、原審では「支払え」となり、最高裁では「支払わなくてよい」との判断となりました。
妻は、二男出産後ほどなくして夫の子ではないと知ったものの、夫に隠し続け、夫がそれを知ったのは7年後のことです。
夫は二男と法的に親子関係を解消することはできないものの、養育費の支払いは免れることができました。ただし、相続の問題は残ります。
自然的血縁関係がなくても、養子縁組を利用して親子関係になることは珍しくありません。
夫が養育費を拒否をする理由として、夫は妻に7年も騙されていたという許せない気持ちがあったのではないでしょうか。
<離婚等請求本訴、同反訴事件 最高(二小)平23.3.18(判)>
家裁月報63-9
妻が、夫に対し、夫との間に法律上の親子関係はあるが、
妻が婚姻中に夫以外の男性との間にもうけた子につき、
離婚後の監護費用の分担を求めることが、権利の濫用に当るとされた事例
妻が、夫に対し、夫との間に法律上の親子関係はあるが、
妻が婚姻中に夫以外の男性との間にもうけた子につき、
離婚後の監護費用の分担を求めることは、次の(1)〜(3)など判示の事情の下においては、権利の濫用に当る。
(1)妻が、出産後程なく当該子と夫との間に自然的血縁関係がないことを知ったのに、そのことを夫に告げなかったため、夫は、当該子との親子関係を否定する法的手段を失った。
(2)夫は、婚姻中、相当に高額な生活費を妻に交付するなどして、当該子の養育・監護のための費用を十分に分担してきた。
(3)離婚後の当該子の監護費用を専ら妻において分担することができないような事情はうかがわれない。
<理由一部抜粋>
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人(昭和37年×月×日生)と被上告人(昭和36年×月×日生)とは、平成3年×月×日に婚姻の届出をした夫婦である。
被上告人は、平成8年×月×日に上告人の子である長男Bを、平成11年×月×日に上告人の子である三男Cをそれぞれ出産したが、
その間の平成9年×月×日ころ上告人以外の男性と性的関係を持ち、平成10年×月×日に二男Aを出産した。
二男と上告人との間には、自然的血縁関係がなく、被上告人は、遅くとも同年×月ころまでにそのことを知ったが、それを上告人に告げなかった。
〜中略〜
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 前記事実関係によれば、被上告人は、上告人と婚姻関係にあったにもかかわらず、
上告人以外の男性と性的関係を持ち、その結果、二男を出産したというのである。
しかも、被上告人は、それから約2か月以内に二男と上告人との間に自然的血縁関係がないことを知ったにもかかわらず、そのことを上告人に告げず、上告人がこれを知ったのは二男の出産から約7年後のことであった。
そのため、上告人は、二男につき、民法777条所定の出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起することができず、
そのことを知った後に提起した親子関係不存在確認の訴えは却下され、もはや上告人が二男との親子関係を否定する法的手段は残されていない。